中国では、契約期間の途中で会社都合により従業員との労働契約を解除する場合や、契約の期日で以って会社都合で労働契約を更新しない場合(いわゆる「雇い止め」)には、会社が従業員に「経済補償金」を支払わなければなりません。
これは、2008年に施行された「労働契約法」等に明確に定められています。「経済補償金」とは、会社都合で職を失う従業員の、今後の「経済」を「補」い「償」うための、お「金」、と覚えてください。(「保証金」ではありません。)
その金額は、カンタンに言うと「勤続N年の人にはNヶ月分の平均月収を支払う」というものです(更に細かい規定がありますが、ここでは割愛します)。なお、従業員が労働契約の途中で自己都合により退職した場合は、会社側に「経済補償金」支払う義務はないので、日本の「退職金」とは異なる概念である、と理解してください。
この「経済補償金」は、現地法人にとって一種の「負債」なのですが、具現化しない(=キャッシュアウトしない)可能性もあるので「この重大さを明確に認識して経営を行っている現法は極めて少ない」というのが現状です。
IBJが中国全土でサポートしている撤退(主に、現法の解散・清算)案件においても、会社都合で従業員を解雇しなければならないので、当然にして「経済補償金」の支払が必要になります。撤退と言っても、赤字を理由に中国から引揚げるだけでなく、中国事業全体の再編や他地域・他国への移転もありますので、近い将来、貴社現法にも起こる話かもしれません。
よって皆さまにお勧めしたいのが、毎年の決算時(年末)に「もしも本日、全従業員を会社都合で解雇したら、総額でいったいいくらの経済補償金を払わなければならないのか」を試算して、日本本社ともその情報を共有しておく、ということです。
日本の「退職給付引当金」のような負債勘定を設定する必要はありませんが、この「見えざる負債」のインパクトを正確に把握しておかないと、いざという時に思わぬ出費を強いられ、場合によってはキャッシュが足りない事態に陥ることもあり得ます。
従業員が騒いで、「経済補償金」を法定額以上に払わされるケースも見受けられます。なお、法定の2倍を払わなければならないのは、現法側が労働契約法に違反して労働契約を解除した場合(「労働契約法」第87条)であり、「2倍が相場」ではありません。ネット上に飛び交う不確かな情報を鵜呑みにしないでください。相場なんてものは、ありません。
「2倍が相場」などと弱腰のアドバイスをする弁護士やコンサル会社にも注意してください。
広東省・福建省・江蘇省に多いのですが、「来料加工廠」を法人化する際に「経済補償金」を支払うべきか否か、もよく争点となっています。法人化しても従業員の業務内容・待遇は変わらないのですが、法人化前は工場を運営する中国企業(中国語で「商務単位」と言います。)との雇用関係にあった従業員が、法人化後は日系企業(もしくは、日本出資の香港系企業)との労働契約に切り替わる点を根拠に、「経済補償金」を求めて紛争に発展するケースも起こっています。
このような紛争を事前に回避するためにも、確かな専門家にサポートを依頼することをお勧めします。
(写真はヤドカリ=沖縄県恩納村にて=本文と直接の関係はありません)